ジャズの名盤が50年代後半から60年代前半に、特に56年に集中したのと同じように、私のお気に入りディスクは70年代後半から80年代前半に集中しています。父親が競馬を聞くために買ったモノラルラジカセで、好きなミュージシャンの曲をFM・AMに構わずエアチェックしたものでした。少ないお小遣いでは1本400円のカセットテープは高価であり貴重でしたので、好みではない曲は容赦なく消去していました。高校入学後は洋楽も聴きましたが、小中学生時代は邦楽(!)が中心でした。振り返ってみると、ミカバンドとYMOがいかに(少なくとも自分にとって)重要であったかが改めて分かります。
76’招待状のないショー(井上陽水)

忘れもしません。小学5年生のときです。怪獣モノが衰退したことで、興味関心がテレビからラジオに移ろった私が最初に衝撃を受けたミュージシャンこそ、井上陽水でした。
平日だけれども学校が休みだったある日、お昼のラジオ番組に「Good,Good-Bye」の電話リクエストを初めてかけました。ランク何位になるかなんて分かるはずがなかったのですが、ある曲が終わり、次の曲名がアナウンスされる直前に、なぜか当然のごとくラジカセの録音ボタンをガチャンと押しました。そして直後に「Good,Good-Bye」のイントロとともに私の名前がコールされたのです。完璧なタイミングでした。不思議なことは身の回りに溢れているものです。そのテープは長いこと宝物でしたが、禄にカセットテープが買えなかったこともあって上書きしてしまいました。
このアルバムはいわゆるフォークソングではありません。星勝のアレンジのもと、若手の凄腕ミュージシャンが素晴らしいプレイを聞かせる「ニュー・ミュージック」です。ここにクレジットされているミュージシャンの作品を聴くことが、それからの私の音楽的指針になりました。
76 ’それから先のことは(加藤和彦)

発売当時、「シンガプーラ」がよくラジオから流れていました。早速シングル盤を購入(実家を改築するときに、シングル盤を親に探してもらうように頼んだのですが、とうとう見つかりませんでした。親は捨てていないと言います)して、歌詞カード(ジャケット)をボロボロになるまで繰り返し眺めていました。ちなみにB面の「キッチン&ベッド」は歌詞を変えて、フジカセットのCMソングとしてテレビ放映されていました。
派手なミカバンドを解散(とミカとの離婚)したことで何かふっきれたのでしょうか。シンプルで心が癒される名曲揃いのアルバムです。加藤和彦は、この後「GARDENIA」というメロウな大傑作(あまりにも傑作なのでLPは2枚所有していました)を発表したのですが、私の音楽的趣味の入り口だったことを考えると、文句無しにこのアルバムが私的「殿堂」入りです。
以上の2アルバムに「PAPA HEMINGWAY」が私にとっての加藤和彦3部作です。長らく入手が難しかった本家ヨーロッパ3部作は、リットーミュージックから出版された「Bahamas Berlin Paris」でめでたく復刻されました。
76’Char(Char)

ツイスト・原田真二とともに「ロック御三家」として話題にのぼっておりましたが、一番「ロック」を感じたのはCharでした。歪んだ音でギターをガンガン弾き倒していたからでしょうか。「夜のヒットスタジオ」に出演したとき、激しい演奏が終わるやいなやゴールドトップのレスポールをド派手にぶん投げるのは格好が良かった!未だに鮮明に思い出されます。森永製菓「小枝」のCMで「俺のギターについて来るかい~」にも子ども心に痺れましたよ。
LPで持っていたのは、この「Char」と「U.S.J」の2枚。今ではそんなことはありませんが、当時は歌謡ロック的な雰囲気がする2ndと3rdアルバムは(まだ本質が分かる歳ではなかったので)購入に至りませんでした。しかしながらこのアルバムはよく聴きました。やはり「SHININ’YOU,SHININ’DAY」と「SMOKY」が強烈に魅力的!
当時妹が「明星」を購読しておりました。このアイドル雑誌は、時折まるでギター雑誌のように野口五郎などのギターや機材などの詳細な紹介記事を掲載したものです。これには興奮しましたね。もちろんCharの記事は穴が空くほど眺めておりました。
77’TAKANAKA(高中正義)

当時、NHK第一放送で「若いこだま」という番組がありました。DJは日替わりで、矢野顕子が担当の日に「高中正義」がゲストの回がありました。当時、井上陽水「招待状のないショー」と加藤和彦「それから先のことは」に夢中だった私は、関連性のあるギタリストとあって興味津々で放送を聞きました。
まさに「るっちか、ぱっちか」と衝撃が走りました。発売されたばかりのセカンドアルバム「TAKANAKA」特集でしたが、「MAMBO NO.5」,「READY TO FLY」で虜になりました。その曲を体で理解したくてギターまで始めてしまいました。未だに「READY TO FLY」、弾けません(T T)<もう40年以上になるのに~。
高中正義のスタイルは一貫としていますが、そのテイストはアルバムごとに異なります。どのアルバムがベストかは多分意見が別れるところですが、私にとってはこの「TAKANAKA」こそが原点です。何千回か分からないほど聴きました(真面目な話、毎日のように聴いていた時期が5年以上ありました。今でもよく聴いています)。
77 ’宇宙幻想(冨田 勲)

シンセサイザーは壮大な音楽を奏でる楽器であることを冨田勲が教えてくれました。当時購入していたFM雑誌での冨田勲の記事を読んでは、「どんな音でも出せる」ことに夢を馳せて憧れを抱いたものです。
家族で初詣にと八王子の高尾山に初詣に出かけたときも、重いラジカセを手に持って、モノラルのイヤホンをして「宇宙幻想」を聞きながら黙々と山を登ったことが思い出されます。それほどこのアルバムにのめり込んでいました。(当時は未だウォークマンなんて便利なものはありませんでした。)
当初は「Star Wars Theme」や「Hora staccato」といった明るい曲が好みでしたが、現在は「Pacific 231」が気に入っています。オーディオシステムの調子がイイので、機関車の重量感がたっぷりと表現され、Kaftwerkの「T.E.E」とは違った疑似トランス感覚が味わえます(アルコールで酔っているとなお好い)。
78’ A COOL EVENING(今井 裕)

今井裕のファーストアルバムにして、極上のリゾート感覚溢れる大傑作アルバムです。
1曲目の「A COOL EVENING」の途中に「BlueMoon」が使われるのは、SADISTICSの「Far away」の「In The Mood」と同じ手法ですが、これがカッコイイんだなぁ。冴えたセンスが光ります。カッコイイといえばベースの後藤次利。1曲目でB.C.Rich Eagle ベースをぶりぶり唸らせています。やっぱり後藤次利にはSpectorよりもB.C.Richを弾いてほしいです。
SADISTICSは正式には3+1枚のアルバムで消滅してしまいましたが、今井裕と後藤次利の発言力がもっと大きければなぁと思わずにいられません。3枚目の「LIVE SHOW」のA面は今井裕が大活躍なのですが、B面はまるで高中バンドのライブみたいです。
今井裕にはもっとソロアルバムを作ってほしかったですね。
78’Caution!(鈴木 茂)

ある日のこと、いつも聞いていたラジオから「レイニースティション」が流れてきました。
それまでは心の中を去来する様々なイメージを豊かな表現力でことばに託したものが歌だと思っていました(例:さだまさし)が、まるで映画の1シーンを切り取ってきたような松本隆の歌詩に衝撃を受けました。「木綿のハンカチーフ」をはじめとした太田裕美の歌に意識的になったのは「レイニースティション」以降です。
数年後、「レイニーステイション」をCDでどうして聴きたくて「鈴木茂ベスト」を買いました。改めて松本/鈴木コンビの作品に陶酔しましたが、音が悪い(こもっている)ので、このアルバムを含めて鈴木茂名義のCDを揃えました。しかしCDは完全にフェイドアウトしきらないまま曲が終ってしまう場合があるので、なんだか興を削がれます。結局、LPも買い揃えました。
「レイニーステイション」以外でも名曲揃いです。ちなみに「風信子」は太田裕美のカバーバージョン(「太田裕美2000BEST」収録)もあるのですが、珍しくオリジナルよりも胸に響きます(松本/筒美コンビの太田裕美作品は傑作揃いです)。
78’MERMAID BOULEVARD(渡辺香津美&GENTLE THOUGHTS)

渡辺香津美を初めて聴いたのがこのアルバムでした。それまで好きであった高中正義や鈴木茂といったロック・ポップスとはまるで異なるサウンドに夢中になりました。
不思議な旋律を奏でるアルペジオから始まる「Mermaid Boulevard」から、後に渡辺香津美の「若いこだま」のテーマ曲になる「Gentle Afternoon」まで、クロスオーバー(当時はそう呼んでいました)作品群として一級品のプレイが続くアルバムです。Lee Ritenour&Gentle thoutsでさえも、このアルバム以上の完成度のアルバムはないのではと個人的には思っています。
惜しむらくは、このアルバムは権利の関係なのか復刻がされにくく、現在でも廉価盤では発売されません。例のごとく、私はLP2枚とCD(Alfa版)を買いましたが、アナログアナログ盤は2枚とも譲ってしまいました。CDはお宝として大切にしています。
79’YELLOW MAGIC ORCHESTRA(American remix)

どの曲が好きかで細野/坂本/ユキヒロ派かが分かると言われますが、私は「SIMOON」,「MAD PIERROT」が大好きなので細野派なのでしょう。「SIMOON」はLOGIC SYSTEMの「東方快車」で、TANTANのボーカルバージョンもあります。しかしオリジナルはやはり強い。YMO版のほうが好みです。
「COSMIC SURFIN'」は細野晴臣/鈴木茂/山下達郎のオムニバスアルバムの「Pacific」(名盤!)がオリジナルですが、やはりオリジナルの方が好きです。しかし「COSMIC SURFIN'」は「Pacific」の世界観にあわない曲なんですよね。細野晴臣がどうしても録音したかったのでしょうが、もっとアルバムコンセプトに寄り添ったスコアを書いてくれたならばと思わずにいられません(そのくらい鈴木茂と山下達郎の曲が素晴らしいアルバムです)。
もちろん日本盤も持っていますが、米国盤のほうがむっちりと色っぽくて音的には私の好みです(吉田美奈子のボーカルが特にイイ)。しかしチープで素っ気ない日本盤のほうが、「細野晴臣の考えるテクノ=イエローマジックオーケストラ」を強く訴えているような感じがします(当たり前か)。