54 ’HELEN MERRILL
俗に「ニューヨークのため息」と称されるヘレン・メリルとクリフォード・ブラウンの共演盤。ちょっとかすれたハスキーなヘレンの歌声に、伸びやかで溌溂としたブラウニーのトランペットが絡んで、お互い魅力を引き出しあっています。アレンジャーはクインシー・ジョーンズ。この頃からすでに素晴らしいセンスを発揮していたのですね。
「You'd Be So Nice To Come Home To」が一番有名だとは思いますが、全てが素晴らしいできの名盤です。持っているCDが「Printed in USA」なのに曲名や演奏者のクレジットが日本語で書かれているという不思議かつ怪しいなしろもなので、出所が確かな高音質盤を買おうと思って20年以上も経ってしまいました。
そんな昔。仲間内でバーで呑んでいたときに「You'd〜」がかかり、すぐさま「おっ、ヘレン・メリルだ。いいなぁ。」と呟きましたが、みんなジャズに関心のない人たちだったので黙殺されました。あの頃は、今みたいにジャズがBGM代わりに街の至るところで流れるなんて思ってもいませんでした。
ジャズの名盤が50年代後半から60年代前半に、特に56年に集中しました。当時の人はどんな思いでジャズを聴いていたのでしょうか。その豊潤さに気がついていたのでしょうか。当時にタイムスリップしてリアルタイムで経験したいものです。ジャズは聴きはじめてからずいぶんと経ちますが、まだまだ浅学で知らないことばかりの素人です。ここで紹介するディスクもいわゆる「有名盤」ばかりです。素人はこんな聞き方をしていたのだなと思っていただければ幸いです(要はバカにしないてください)。
56 ’SAXOPHONE COLOSSUS(SONNY ROLLINS)
言わずと知れたジャズの大本命盤。私が2番目に買い求めたジャズのCDでもあります。このアルバムのおかげでジャズを聴き続けていると言っても過言ではありません。「ST.THOMAS」から「BLUE7」まで息の飲む暇なく名演が続きます。明るさ、楽しさ、渋さ、哀愁…モダンジャズのすべての要素が詰まっているといってもいいでしょう。
実は「NEWKS TIME」の豪放さも個人的には大好きなのですが、音色などを含めた完成度などを考慮すれば、やはりこの「SAXOPHONE COLOSSUS」になってしまいます。
ただ一つ難点があるとすれば、余りに聴き過ぎたため、最近は聴く乗る機会がめっきり少なくなったことでしょうか。それでも思い出したようにお皿に乗せては、自分にとってのジャズの原点の確認作業をしています。このアルバムには多言は無用ですね。
56’brilliant corners(THELONIOUS MONK)
モンクの音楽は良く言えばユニーク、悪く言えばヘン。初めて聴くときに、ピアノソロでずっこけてしまいそうになることさえあります。
このアルバムはリズム隊とソニー・ロリンズががっちりと固めているためでしょうか、こじんまり小奇麗にまとまるのではなく、曲に広がりとアクセントがつき、ユニークというよりも唯一無比のユーモアをモンクのピアノに感じます。モンクのアルバムにしてはとても聴きやすい、というより何度でも聴きたくなります。
タイトル曲の「BRILLIANT CORNERS」が一番好きです。調子はずれぎみにモンクのピアノでイントロ(テーマ)の後に、ロリンズの豪放なテナーが追い掛ける様は、例えて言えば固い殻にぴしぴしとヒビが入り、その殻の中から光り輝く大きな何かが突き破って登場するかのようです。この1曲目に限らず、ソニー・ロリンズのテナーがどの曲もナイスです。正直、半分ロリンズのアルバムとして聴いている節もあります。
56’'ROUND ABOUT MIDNIGHT(MILES DAVIS)
「わかっていないなぁ」と言われそうだけど、マラソン・セッションを含めてこの時期のマイルスが一番好きです。以前何かで「マイルスのミュート・トランペットは人の声だ」といった要旨の記述を読みましたが、まさにそう思います。絶唱型ではなく、かといって呟き型でもない、あくまで自然体の歌声。しかも必要な声しか発しない寡黙なマイルス。饒舌なコルトレーンとはまさに対照的です(本当にここでのコルトレーンはもう少し抑制した方がイイと私は思うのですが…)。とはいうものの「DEAR OLD STOCKHOLM」のトランペットは力が入っていますね(^^;
モンクの「ROUND〜」をここまでカッコよく仕立て直してしまうマイルスはさすがとしかいいようがありません(別にモンクのが悪いとは言っていませんので悪しからず)。
「今日はマイルスが聴きたいなぁ」と思うとたいていこのアルバムかマラソンセッションを選びます。お皿に乗った回数は圧倒的にこのアルバム。と、いうわけでこのページに登場という訳なのです。
58’ the scene changes(BUD POWELL)
ジャズを聴かない人にも知られる程有名な「CLEOPATRA'S DREAM」が収録されている「The Amazing」シリーズ第5集。シリーズ1のような超絶技巧は影を潜め、音の洪水の渦に巻き込まれることなく、ゆったりとピアノを観賞することが出来ます。
もちろん「鬼気せまる」とか「神憑かり的」な演奏も好きなんですが、これは聴く方にも体力が必要になります。名演奏集「バド・パウエルの芸術」でさえ、BGMとして聞けない体力の乏しい私は必然的に穏やかなアルバムを聴く機会が多くなるのです(オーディオルームで鳴らしているのを隣の書斎で耳にすることはできるんですけどね)。
このアルバムもジャズを聴きはじめて間もない頃に購入したものです。いまいち音が冴えないので、RVGの紙ジャケット仕様のCDを買いました。特別仕様のCDは、さすがに音質が高かった。しかし、紙ジャケット仕様はどうにも性に合わないので、結局売却して別のCDの購入資金にあてました。世の中には私のような「紙ジャケット仕様」が嫌いな人はどのくらいいるのでしょうかね。
58’CANDY(LEE MORGAN)
当時19歳にてのワンホーン・カルテットアルバム。伸びやかで溌溂としたプレイ。かと思えば情感たっぷりなプレイと様々な顔を見せてくれます。ソニー・クラークのソロもイイ感じです。
「I REMEMBER CLIFFORD」が収録された「Vol.3」もイイのですが、私は基本的にはワンホーンものが好きなのでこちらのほうに軍配をあげます。
自分が19歳の時は大学に合格して読書三昧(文学部なので文芸作品とともに当時隆盛でした記号論などを読んでいました)の時期でした。ジャズ研に入ろうとも思いましたが、ギターは相変わらずヘタクソで、みんなに迷惑をかける自信(っていうのかなぁ…)があったのでやめてマンガ研究会に入りました。が、その当時のマン研の先輩たちは、「エロ」でないのが救いでしたが「何かを表現したい!」といった志がなく、絵柄も酷く乱雑なので失望して半年でやめました。天才と比較しても始まらないのですが、同じ19歳にしてリー・モーガンは凄いなと改めて思います。
59’THE SHAPE OF JAZZ TO COME(ORNETTE COLEMAN)
発表当時センセーションを起こしたといわれるアルバム。今聴くとその前衛性の凄さはよく分からないのが正直な感想です。
オーネット・コールマンのアルト・サックスの音色が色っぽくて(どこかで「濡れている」と評している記事を読みましたが、まさにそう)、音楽を聴くというよりもオーネットのアルトの音を聴くといった感じです。
時折、ドン・チェリーのコルネットが邪魔に感じるのは私ぐらいでしょうか。そこに目をつぶる(耳を塞ぐ)と1曲目の「淋しい女」が大好きです。なにやら美人なのですが薄幸の女性がコートの襟をたてて薄暗い寒い冬の小道を歩いているような情景が目に浮かびます。
その後、オーネットはフリージャズに突入するわけですが、フリージャズが嫌いなので、聴かず嫌いで「ゴールデンサークル」しか持っていません。おこずかいが思いがけなく当たったら買って聞いてみるかな。
59’TIME OUT (THE DAVE BRUBECK QUARTET)
まだ私が小学生の頃、ニッポン放送系列で青春時代のエピソードをアナウンサーとの対話で著名人が語る「拝啓、青春諸君」という帯番組がありました。この番組のテーマ曲が子供ながらに格好良く感じ、なにか「大人」を感じさせてくれたものでした。その曲が、かの有名な「TAKE FIVE」でした(曲名はジャズを聴きはじめてから分かりました)。
ジャズアルバム購入3枚目がこのアルバムでした。1曲目の「BLUE RONDO ALA TUCK」が流れてきた時、正直なところがっかりしました。「これがジャズかい!」しばらくの間は本命の「TAKE FIVE」だけを聴いていましたが、次第にポール・デスモンドのアルトの美しさに惹かれはじめ、また色々なアルバムを聴くうちにこのアルバムも「あり」だなと思うようになりました。今ではよくBGMがわりにかけています(「TAKE FIVE」のときは、もちろん作業をやめて休憩します)。美脚のジャケットで有名な「Anything Goes!」のアナログLPはお宝でしたが、断捨離の一環で知人に譲ってしまいました。
59’ PORTRAIT IN JAZZ (BILL EVANS)
私にとって記念すべきジャズCD購入第1号です。ジャズを聴こうと思ったきっかけが、エバンスの弾く「いつか王子様が」に魅了されたからでした。そのためにジャズレコードの購入第1号も「王子様」が収録されている「MEMORIES OF EVANS」という、いわゆる4部作からのベスト盤でした。そのレコードの中核をなすアルバムですので、何の躊躇いもなく購入しました。
このアルバムからジャズに入りましたので、このジャズこそ私のジャズの原点でもあり、ピアノトリオの原点でもあります。それまではジャズとは汗だくで全身全霊で音を絞り出す音楽だと勘違い(^^;していましたから、「理屈抜き」でこれがジャズなんだと軌道修正できたのは幸せでした。スコット・ラファロのベースとエバンスのピアノのかけあいが何ともカッコイイ。またポール・モチアンのドラムもなんとも絶妙に二人に絡むところが素晴らしい。
高校生の頃、リチャード・クレイダーマンのピアノを練習する妹のあとで、簡単にアレンジし直された「いつか王子様が」に挑んでいましたが、「うるさいからやめろ」と母親に叱られてしまい、意気消沈して鍵盤から身を引きました。謙遜なく、私は楽器が絶望的にヘタクソなんです。
「meets The Rhythm Section」の溌溂としたアート・ペッパーもいいのですが、適度に陰りのある「modern art」のほうがターンテーブルに乗る回数が多いんです。
車に乗りながらはジャズを聴きませんし(好んでSTVラジオを聞いています)、出勤前の朝に聴くこともなく、ましてや昼間に仕事をしながら聴くことはありえません。となると夕食後のアルコールが程よく注入された状態で聴くわけでして、けだるい体がジャズを求める時は「陰り」が重要なんです。もちろん興奮していてロックを聴くことも多いわけですが、アート・ペッパーのアルトサックスは私の求めている「陰り」に合うんですね。気持ちよく心と体をほぐしてくれます。
あんまり「陰り」と何度も書くと、もしこのアルバムを未聴の人は「暗いアルバムなのかな」と誤解してしまいますね。決して「暗いアルバム」ではありません。ペッパー特有の溌溂としたアルトサックスを堪能できます。でもどこか「陰り」というか「渋さ」を感じるんですよね。バラードの演奏が特に素晴らしい。