ある日のこと、いつも聞いていたラジオから「レイニースティション」が流れてきました。
それまでは心の中を去来する様々なイメージを豊かな表現力でことばに託したものが歌だと思っていました(例:さだまさし)が、まるで映画の1シーンを切り取ってきたような松本隆の歌詩に衝撃を受けました。「木綿のハンカチーフ」をはじめとした太田裕美の歌に意識的になったのは「レイニースティション」以降です。
数年後、「レイニーステイション」をCDでどうして聴きたくて「鈴木茂ベスト」を買いました。改めて松本/鈴木コンビの作品に陶酔しましたが、音が悪い(こもっている)ので、このアルバムを含めて鈴木茂名義のCDを揃えました。しかしCDは完全にフェイドアウトしきらないまま曲が終ってしまう場合があるので、なんだか興を削がれます。結局、LPも買い揃えました。
「レイニーステイション」以外でも名曲揃いです。ちなみに「風信子」は太田裕美のカバーバージョン(「太田裕美2000BEST」収録)もあるのですが、珍しくオリジナルよりも胸に響きます(松本/筒美コンビの太田裕美作品は傑作揃いです)。
70 ’SANTANA ABRAXAS (SANTANA)
サンタナは、高中正義を聴くようになってから聴き始めました。記憶をたどると、Jimi に次いで気になった海外のギタリストだったと思います。
多分初めて耳にしたのは「哀愁のヨーロッパ(76)」。しかし熱中したのは、このアルバムを聴いてからでした。やはり「Bkack Magic Woman
/ Gypsy Queen」「Samba Pa Ti」「Hope You're Feeling Better」が好きですね。ダレることなく一気通貫で聴かせてしまう迫力満点のバンド演奏です。
自分でギターを弾き始めて解ったのですが、この頃のサンタナのギターは艶っぽいというよりもかなり乾いています。高中の音色を真似てセッティングしたフェクターですと同じような音が出せません。ジョイントコンサートを行ったこともあってよく比較されたように思いますが、改めて考察するとあまり意味がないように思えます。そもそも音で描いているのがアフリカとセイシェル諸島ですから。
サンタナも新譜が出れば買い求めるミュージシャンなのですが、グラミー賞を獲得して再浮上したときは驚きました。その後の諸々の活躍を見ると、「海外の大物は凄いな」と感嘆せずに入られません。
77 ’宇宙幻想(冨田 勲)
シンセサイザーは壮大な音楽を奏でる楽器であることを冨田勲が教えてくれました。当時購入していたFM雑誌での冨田勲の記事を読んでは、「どんな音でも出せる」ことに夢を馳せて憧れを抱いたものです。
家族で初詣にと八王子の高尾山に初詣に出かけたときも、重いラジカセを手に持って、モノラルのイヤホンをして「宇宙幻想」を聞きながら黙々と山を登ったことが思い出されます。それほどこのアルバムにのめり込んでいました。(当時は未だウォークマンなんて便利なものはありませんでした。)
当初は「Star Wars Theme」や「Hora staccato」といった明るい曲が好みでしたが、現在は「Pacific 231」が気に入っています。オーディオシステムの調子がイイので、機関車の重量感がたっぷりと表現され、Kaftwerkの「T.E.E」とは違った疑似トランス感覚が味わえます(アルコールで酔っているとなお好い)。
77’TAKANAKA(高中正義)
当時、NHK第一放送で「若いこだま」という番組がありました。DJは日替わりで、矢野顕子が担当の日に「高中正義」がゲストの回がありました。当時、井上陽水「招待状のないショー」と加藤和彦「それから先のことは」に夢中だった私は、関連性のあるギタリストとあって興味津々で放送を聞きました。
まさに「るっちか、ぱっちか」と衝撃が走りました。発売されたばかりのセカンドアルバム「TAKANAKA」特集でしたが、「MAMBO NO.5」,「READY TO FLY」で虜になりました。その曲を体で理解したくてギターまで始めてしまいました。未だに「READY TO FLY」、弾けません(T T)<もう40年以上になるのに〜。
高中正義のスタイルは一貫としていますが、そのテイストはアルバムごとに異なります。どのアルバムがベストかは多分意見が別れるところですが、私にとってはこの「TAKANAKA」こそが原点です。何千回か分からないほど聴きました(真面目な話、毎日のように聴いていた時期が5年以上ありました。今でもよく聴いています)。
76 ’それから先のことは(加藤和彦)
発売当時、「シンガプーラ」がよくラジオから流れていました。早速シングル盤を購入(実家を改築するときに、シングル盤を親に探してもらうように頼んだのですが、とうとう見つかりませんでした。親は捨てていないと言います)して、歌詞カード(ジャケット)をボロボロになるまで繰り返し眺めていました。ちなみにB面の「キッチン&ベッド」は歌詞を変えて、フジカセットのCMソングとしてテレビ放映されていました。
派手なミカバンドを解散(とミカとの離婚)したことで何かふっきれたのでしょうか。シンプルで心が癒される名曲揃いのアルバムです。加藤和彦は、この後「GARDENIA」というメロウな大傑作(あまりにも傑作なのでLPは2枚所有していました)を発表したのですが、私の音楽的趣味の入り口だったことを考えると、文句無しにこのアルバムが私的「殿堂」入りです。
以上の2アルバムに「PAPA HEMINGWAY」が私にとっての加藤和彦3部作です。長らく入手が難しかった本家ヨーロッパ3部作は、リットーミュージックから出版された「Bahamas Berlin Paris」でめでたく復刻されました。
75 ’JACO PASTORIUS
もしリアルタイムにこのアルバムを聴いていたら、今頃はベースを手にしていたかも知れません。当時は存在すら知りませんでした(小学生でしたしね)。高校生の時、バンド仲間のベーシストが2ndアルバムを評して「ジャコジャコしている」といった発言もあって、「妖し気なフージョンに違いない」と決めつけて、意図的に避けていたのです。大学入学後のある日、このアルバムを偶然聴いて衝撃が走りました!なんとベースを気持ちよく歌わせるのでしょうか!ベースが歌うことの重要性は後藤次利で知ってはいましたが、ここまで唸らせる人であったとは…。先入観はいけませんね、素敵なことを知らずに過ごしてしまいます。アルバムは文句なく100点満点。ベーステクニックもさることながら、楽曲も素晴らしい。ソロとバンドのサンドウィッチ構成であるところも飽きさせません。
それ以降、ウエザーリポートはもちろん、ジョニ・ミッチェルなども買い求め、ジャコ漬けの日々が続きました(パット・メセニーのファンになったのと大体同じ時期です)。最近(といっても随分経ちますが)ジャコ再評価の気運の高まりで、入手が難しかったCDも手に入るようになり、一ファンとしてはうれしい限りです。
渡辺香津美を初めて聴いたのがこのアルバムでした。それまで好きであった高中正義や鈴木茂といったロック・ポップスとはまるで異なるサウンドに夢中になりました。
不思議な旋律を奏でるアルペジオから始まる「Mermaid Boulevard」から、後に渡辺香津美の「若いこだま」のテーマ曲になる「Gentle Afternoon」まで、クロスオーバー(当時はそう呼んでいました)作品として一級品のプレイが続くアルバムです。Lee Ritenour&Gentle thoutsでさえも、このアルバム以上の完成度のアルバムはないのではと個人的には思っています。
惜しむらくは、このアルバムは権利の関係なのか復刻がされにくく、現在でも廉価盤では発売されません。例のごとく、私はLP2枚とCD(Alfa版)を買いましたが、アナログアナログ盤は2枚とも譲ってしまいました。CDはお宝として大切にしています。
76’招待状のないショー(井上陽水)
忘れもしません。小学5年生のときです。怪獣モノが衰退したことで、興味関心がテレビからラジオに移ろった私が最初に衝撃を受けたミュージシャンこそ、井上陽水でした。
平日だけれども学校が休みだったある日、お昼のラジオ番組に「Good,Good-Bye」の電話リクエストを初めてかけました。ランク何位になるかなんて分かるはずがなかったのですが、ある曲が終わり、次の曲名がアナウンスされる直前に、なぜか当然のごとくラジカセの録音ボタンをガチャンと押しました。そして直後に「Good,Good-Bye」のイントロとともに私の名前がコールされたのです。完璧なタイミングでした。不思議なことは身の回りに溢れているものです。そのテープは長いこと宝物でしたが、禄にカセットテープが買えなかったこともあって上書きしてしまいました。
このアルバムはいわゆるフォークソングではありません。星勝のアレンジのもと、若手の凄腕ミュージシャンが素晴らしいプレイを聞かせる「ニュー・ミュージック」です。ここにクレジットされているミュージシャンの作品を聴くことが、それからの私の音楽的指針になりました。
78’ A COOL EVENING(今井 裕)
今井裕のファーストアルバムにして、極上のリゾート感覚溢れる大傑作アルバムです。
1曲目の「A COOL EVENING」の途中に「BlueMoon」が使われるのは、SADISTICSの「Far away」の「In The Mood」と同じ手法ですが、これがカッコイイんだなぁ。冴えたセンスが光ります。カッコイイといえばベースの後藤次利。1曲目でB.C.Rich Eagle ベースをぶりぶり唸らせています。やっぱり後藤次利にはSpectorよりもB.C.Richを弾いてほしいです。
SADISTICSは正式には3+1枚のアルバムで消滅してしまいましたが、今井裕と後藤次利の発言力がもっと大きければなぁと思わずにいられません。3枚目の「LIVE SHOW」のA面は今井裕が大活躍なのですが、B面はまるで高中バンドのライブみたいです。もっとソロアルバムを作ってほしかったですね。
ジャズの名盤が50年代後半から60年代前半に、特に56年に集中したのと同じように、私のお気に入りディスクは70年代後半から80年代前半に集中しています。父親が競馬を聞くために買ったモノラルラジカセで、好きなミュージシャンの曲をFM・AMに構わずエアチェックしたものでした。少ないお小遣いでは1本400円のカセットテープは高価であり貴重でしたので、好みではない曲は容赦なく消去していました。高校入学後は洋楽も聴きましたが、義務教育時代は邦楽(!)が中心でした。振り返ってみると、ミカバンドとYMOがいかに(少なくとも自分にとって)重要であったかが改めて分かります。
KRAFTWERKは、私にとって冨田勲の対極にあるシンセサイザーサウンドです。冨田勲の音色が感情に訴えるのに対して、KRAFTWERKの音色とリズムは本能に訴えかけるかのようです。もちろん当時の私がそんな風に分析できるわけがありません。
78'「人間解体」あたりからラジオで流れ始めましたが、1曲の演奏時間が長いので、通して聞けるようになったのは後年のYMOの流行があってのことでした。「面白い」と感じながらも、どこか「不気味」な音楽だと受け取っていました。
やがてYMOとニューウェイブの旋風が到来しました。私にもようや「テクノ」の素地ができて、YMOはもちろんのこと、KRAFTWERKやDEVOを繰り返し聴きました。特に「T.E.E」は何度聞き返したか分かりません。私にとって「テクノ」とはKRAFTWERKのことであり、KRAFTWERKこそが「テクノ」の尺度です。アップデートをしながら、現在でもKRAFTWERKであり続ける姿勢はもはや伝統芸能であると言ってもよいでしょう。もちろん褒め言葉です。
どの曲が好きかで細野/坂本/ユキヒロ派かが分かると言われますが、私は「SIMOON」,「MAD PIERROT」が大好きなので細野派なのでしょう。「SIMOON」はLOGIC SYSTEMの「東方快車」で、TANTANのボーカルバージョンもあります。しかしオリジナルはやはり強い。YMO版のほうが好みです。
「COSMIC SURFIN'」は細野晴臣/鈴木茂/山下達郎のオムニバスアルバムの「Pacific」(名盤!)がオリジナルですが、やはりオリジナルの方が好きです。しかし「COSMIC SURFIN'」は「Pacific」の世界観にあわない曲なんですよね。細野晴臣がどうしても録音したかったのでしょうが、もっとアルバムコンセプトに寄り添ったスコアを書いてくれたならばと思わずにいられません(そのくらい鈴木茂と山下達郎の曲が素晴らしいアルバムです)。
日本盤も持っていますが、米国盤のほうがむっちりと色っぽくて音的には私の好みです(吉田美奈子のボーカルが特にイイ)。しかし素っ気ない日本盤のほうが、楽器と機器とが直線的に交錯していて、「細野晴臣の考えるテクノ=イエローマジックオーケストラ」を強く訴えているような気がします(当たり前かな)。